■自然環境保全などに懸念
八重山観光もついに「量から質への転換」が言われ始めた。加えて観光入域について、「管理と規制」の考え方、今後の指針など活発な議論、真摯な検討が必要な時を迎えているのではないか。
石垣市が「入島税」創設を検討するという。手法によっては八重山全域に関わるだけに実現までの道のりには困難がつきまとうに違いない。
観光客は石垣島のみを訪れる訳ではない。竹富・与那国両町へも足を延ばす。果実の案分をどう考えるか、そもそも空と海いずれの入域か、あるいは宿泊に課すのか、クルーズへの対応は、それこそ慎重な吟味が求められる。しかし今取り組み始めなければ、自然環境保全など未来に禍根を残す懸念がある。
■滞在日数、消費拡大が課題
八重山観光は入域138万人時代を迎え、昨年の観光収入は850億円超と過去最高を記録した。だが景況感がないのはなぜだろう。
県の発表によれば昨年の全県観光収入は、前年度比5・7%増の6979億2400万円にのぼった。入域観光客の増加に伴い、5年連続で過去最高を更新した。
その一方で、観光客1人当たりの県内消費額は3・2%減の7万2853円と、2年連続で減少した。
国内観光客は滞在日数の減少により1人当たり7万2284円。滞在日数を延ばすことこそが「質」の向上だろう。
これに対しクルーズ客は2万9861円。その差は歴然だ。宿泊を伴わない形態が要因だが、受け入れ側も消費拡大に積極的とは言い難い。
消費形態もかつての「爆買い」はすっかり影をひそめ、ドラッグストアやスーパーで比較的安価な化粧品や食料品、菓子類を購入する場面を市民は見ている。
石垣でも船中泊のオーバーナイトステイが試みられたが、客は一部の焼肉店に流れて飲食店全体への波及効果はさほどなく、スーパーでの買い物が目立った。
観光入域客数の伸びを支えているのはクルーズ客である。その消費に課題があるのなら今すぐ議論を始めるべきだ。
例えば石垣牛なら海外客にもある程度認知されている。しかし、八重山そばやちゃんぷるなどの郷土料理はどうか。クルーズ客にとって石垣は「最も近い日本」との認識であって、八重山の食を欲しているわけではない。
ならば、牛肉だけでなくマグロやカツオなど新鮮魚介類や野菜、果実、ハーブなど地元産素材を生かしたブランド化や、海外にもよく知られた和食、すし、ラーメンなどの展開はどうか。
那覇では豚骨ラーメン店に行列ができるという。
スーパーの消費だけでは地元に利益が生まれない。ささやかなことでも模索していくべきだ。
■「不要論」出ぬうちに
地元に景況感がなく単に入域客が増えるだけなら、地域から疎まれる日が来る。クルーズ不要論も出かねない。そんな状況ではリーディング産業たり得ない。
石垣市が実施したWEBアンケートで、入域客増加を望む声は2割未満、減少を望むのは47・4%と半数近くを数えた。紙ベースで年代別に調査したら、もっとシビアな結果となったかも知れない。
「観光客の増加で困ったこと」として「自然環境への影響に不安を感じる」が70%に達したことは最も注目すべきだろう。自然景観の保全も課題だ。
もはや観光客数の伸びばかりに左右される時代ではない。地域はそのありようについて現実を直視している。
八重山観光はどうあるべきか。行政は上限値の検討を含め「管理と規制」を念頭に議論を始めるべきだ。