■「地元主導」の観光開発
1972年の本土復帰直後、石垣市や竹富町で本土企業や本土資本による各種の観光開発計画に対し、地元の若者やUターン青年らによる反対運動があった。彼らが目指したものは、本土企業による乱開発から自然景観を守るとともに、地元資本を中心にした「地元主導」の開発で地域の経済活性化を図ろうというものだった。
それから40年余。日本最南端の小さな島々は待望の新空港開港もあって観光客が毎年うなぎ上りに増え、昨年は観光客138万人、観光消費額は850億円超といずれも過去最高を記録。かつてない好景気に沸いている。
しかし開発の形態は、地元の人々は起業力も、企業力も、資本力もないことから、毎年の観光客の増加に応じて本土企業や本土資本が次々進出。反対運動の若者たちが当時望んだ「地元主導」の言葉はもはや死語となり、八重山観光は大量の本土観光客の大半を、本土資本のホテルや飲食店などが受け入れているというのが実情だ。
■軒を貸して母屋を取られる
そのため観光消費額の6~7割が島外に流出しているともいわれ、そこで地元の人々からは「八重山には毎年何百億という観光消費額が落ちているのにその金は一体どこへ消えた。いつまでたっても全く豊かさの実感がない」と「ザル経済」の指摘と共に「軒を貸して母屋を取られる」「借家栄えて母屋倒れる」の皮肉が飛び交うほどだ。
そういう中にあって先月から今月にかけ注目すべき二つの報道があった。一つは先月の石垣市観光交流協会の総会で、今更ながらに「量から質」に転換の方針が打ち出されたことだ。
2期4年務めた高嶺良晴会長は「観光消費額が予想以上に島外に流出してうるおいの景況感がない。地元にお金が落ちる策を考えるべきだ」と「ザル経済」からの脱却を求めたのだ。
この問題は以前から指摘されてきたことだが、その割に石垣市の具体的な指針や施策の方向が見えないのは、石垣市として今の形での活性化で良しと満足しているということなのか。
■「砂上の楼閣」のもろさ
あと一つは石垣市が実施した観光に関する住民アンケートで、観光客の増加を望む回答が18・6%と2割未満に対し、現状維持35・1%、入域減が47・5%に上ったことだ。これは地元の人々に豊かさの実感が乏しい中で「本土の人々のための観光振興」の批判もある今の八重山観光の問題点を示唆しているように見える。
それは観光客の増加で7割余が自然環境への影響に不安を示し、その上で断トツの6割余が観光振興策のトップに自然環境保全を挙げ、さらに観光客のマナー違反などで日常生活の影響を懸念。市の観光施策にも5割余が不満を示していることにうかがえる。
観光産業は外的要因に左右され「砂上の楼閣」のようにもろい。それを石垣市は依然量を求めてあろうことか風景計画の高さ制限を事実上撤廃した。高層開発で次々景観が破壊されれば上げ潮の八重山観光も「おごる平家」のようにシャッター通りは必定だろう。
石垣市は謙虚に現状を顧みて、地元の人々が豊かさを実感できる「量より質」の観光指針を示すべきだ。