【東京】昔話や民謡など日本の口伝えの民間伝承を研究する日本口承文芸学会(間宮史子会長)の第68回例会が3月28日、国学院大学渋谷キャンパスで開かれた。今回は長年、東京で郷友会活動をしてきた八重山出身者にスポットを当て、「都市語りの可能性」をテーマに郷友会の古老などの座談会や民俗芸能のデモンストレーションなどが行われた。
座談会では、東京竹富郷友会の冨野芳江さん、前新二三四さん、2世の瀬戸克会長、東京八重山郷友連合会の仲本学さんらが島言葉や戦争体験、今後の郷友会活動などを語り合った。
冨野さんは、幼いころ祖父から聴いた歌を披露。「いろんな体験を書いて伝えるべきだと思う。孫たちにも語って聞かせてほしい」と継承を呼びかけた。
前新さんは終戦当時、竹富島に流れ着いた薬きょうを集めて遊んだことや、子ども1人が事故死したときの経験を語った。瀬戸さんは、父の修さんから伝え聞いた会発足当初のことを語り、仲本さんは幼いころ、戦争マラリアで父を亡くしたことや、その後上京し通った中学校では「君が代が(自分だけが知らず)歌えなかった」と経験を語った。
黒島出身で聴き耳の会(野村敬子さん主宰)の大川安子さんは、黒島の「フカに助けられた先祖の伝説」や先祖に伝わる多良間真牛の掛け軸を紹介した。
また、比嘉千都代さんが学生時代に母から教わったという古い手による「鷲ぬ鳥節」を披露したほか、郷友らが「安里屋節」「まみどーま」「山崎のあぶじゃーま」などを披露した。
狩俣恵一沖縄国際大学教授は「東京における八重山伝承の今日的意義」と題し総括。この中で東京竹富郷友会の90年に及ぶ歩みを振り返りつつ、「島言葉を生活の中に残すのはそう簡単ではないが、自分たちのシマの言葉でつくられた芸能をしっかりと受け継いでいくことで、これが言葉の塊として残る。時代の変化の中で継承のあり方も常に問い返していかなければならない」と語った。
会では、同大の久野マリ子教授が「うちなーぐちから見える文化と社会」の演題で講演した。
(黒島安央通信員)