那覇検疫石垣出張所に木村弘さんという技官がいた。故人になってしまったが、「蚊」を媒介とする感染症の研究者だった▼毎週、石垣港周辺の蚊を採取し、ウイルスの有無を確認していた。訪ねると「顕微鏡を見る?」といい、蚊の習性や種類、マラリアやデング熱などの疾患を教えてくれた。蚊の定点調査を行っていた最後の技官だろう▼よく「こんなことしているのは僕くらい」と笑い、「八重山は要警戒地域だよ」と熱っぽく語っていた。マラリア終息後の蚊の研究への国の関心の薄れを実感していたと思う▼ここのところデング熱騒動が波紋を広げているが、国内70年ぶりの確認とあるが、沖縄は明治26年から大小十数回の流行があり、昭和30年に終息している。大正4年には八重山で1万7569人、実に人口の68.3%がり患しているのである▼復帰前のこととはいえ、厚労省の記録(記憶)だと、沖縄は国内ではないのかもしれない。デング熱報道を過熱という人もいるが、八重山にとっては重要な話だ▼なぜなら八重山は国境で、熱帯のウイルス性感染症予防の最前線だからだ。国の見方が対策を大きく左右する。お年寄りの中にはデング熱の抗体を持つ人もいるが、この種の対策は無防備。しかもデング熱有病地の台湾から、毎週大勢の観光客が石垣入りしている。(黒島安隆)
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