■参院選向け争点封じ
安倍首相が1月の施政方針演説で唐突に、昨年の国会で“骨抜き”にしたはずの「同一労働同一賃金」の実現を打ち出した。そして今月4日にはこれも突然、名護市辺野古の新基地建設をめぐる代執行訴訟で工事中止を含む和解案の受け入れを表明した。
いずれも本来は歓迎されるべきものが、なぜか当事者や野党側からむしろ警戒感や疑念が強いのは、「安倍首相は選挙に勝つためなら権謀術数を駆使して何でもやる」(自民党幹部)選挙対策とみられているからだ。
確かに「在任中に憲法改正を果たしたい」と意気込む安倍首相にとって夏の参院選は、長期政権を維持し悲願の憲法改正を実現する正念場だ。それだけに巨額の税金を使った選挙対策のばらまきとの批判が強い低所得高齢者への3万円給付や公明党の選挙協力を取り付ける軽減税率導入などと同様、いずれも選挙対策のパフォーマンス、野党の攻め手を奪う“争点封じ”としか受け取られないのも当然だろう。
特に沖縄では6月に県議選もあるため、米国との約束を果たすために「辺野古隠し」で勝利した宜野湾市長選に倣って、「和解」で両選挙の“争点隠し”を狙ったとの見方が強い。
■また“骨抜き”懸念も
正社員であれ、非正規であれ同じ仕事なら同じ賃金をもらえる「同一労働同一賃金」は、全国で4割を占める非正規労働者にとってはぜひ実現してもらいたい制度だ。それは2人に1人が非正規労働者の沖縄はなおさらだ。
安倍首相は5月の一億総活躍社会プランに具体策を盛り込み、来年の通常国会に提案の方針を示しているが、首相の掛け声の割に疑念は強い。
そもそも同法案は昨年夏の国会で民主などの野党が提案。これに対し首相は生涯派遣あるいは非正規労働を強いる「労働者派遣法改正案」を成立させるため維新と修正協議、野党案を“骨抜き”にした。それが法成立から半年足らずでこのように突然の変身だ。
そのため民主党など野党が唱える正規・非正規労働者の賃金を是正する経済格差是正に踏み込むことで参院選で争点を封じ込め、非正規労働者の票を取り込む選挙対策との見方をされているのだ。一方で逆に正社員の賃金を削減するためとの見方もあるが、企業優先の政権だけにそういう疑念も出る。
選挙が済めばどうなるかだ。
厚労省調査では正社員の賃金は約32万円、非正規はその6割の約20万円であり、首相自身も認める格差は選挙に関係なく早急に是正されるべきだ。
■参院選の先で待つのは
辺野古新基地訴訟の「和解」も、確かに参院選や県議選に向け、国民への対話姿勢アピールと争点隠しだろう。政権の本質は「辺野古が唯一」と変わっておらず、県民が沖縄差別を止めるには選挙に勝ち続けることだ。
放送法でメディアもけん制するなど「選挙に勝つためには何でもやる」という安倍首相の強権と暴走を止めるには、その選挙を逆手に取ることだ。参院選の先には、憲法改正で紛争やテロが日常の欧米や中東などと同様の「戦争国家」入りと、所得格差拡大による低所得の若者たちの“経済的徴兵制”が現実の問題としてちらつく。