■事業主の努力義務に
がんになった人が働き続けられるよう、事業主に雇用継続への配慮を求めた「改正がん対策基本法」を知っている人はどれほどいるだろうか。県政や基地問題に大きな影響を与える翁長知事が突然、すい臓に腫瘍があることを明らかにし、11月に知事選を控えその病状が注目を集めている。そこで一生のうち2人に1人ががんと診断される時代の今、最も身近な問題として同法を取り上げてみることにした。
日本で最初に「がん対策基本法」ができたのは米国から35年遅れの2006年。どこにいても同じレベルの治療が受けられることを目標に掲げた。
それから10年近くがたち、働く世代にがん患者が増加し、一方で医療技術の進歩で通院しながら働く患者が増えたため、2016年12月に「がん患者が安心して暮らせる社会」を目標に、事業主の努力義務としてがん患者の雇用継続に配慮を求め、国や自治体のがん対策にも協力を求めた同改正法が超党派の議員提案で成立したものだ。
■がん10年生存率が大幅増
確かに国立がん研究センターの調査によると、2013年にがんと診断された患者約86万2000人のうち20~64歳の働く世代は約25万人で3人に1人。
さらに同センターによると2001年~04年にがんと診断された人の10年生存率は、全体の平均では昨年より1・3ポイントアップの55・5%だったが、前立腺は92・4%、甲状腺86%、乳がん82・8%、子宮体79%、そして子宮頸(けい)がん、大腸がん、胃がんは60%以上だった。それが5年生存率になると全体の平均では67・6%とさらに大幅アップだ。
これも新たな抗がん剤の開発や医療技術の進歩によるもので、今後もアップしていくとみられているが、そのためには喫煙対策や早期発見のための検診受診率向上が依然大きな課題だ。
このようにがんになってもすぐ死ぬということでないし、生活や治療費のためにも働く必要がある。そのために事業主に雇用継続への努力義務を求めた法改正から約1年半になるが、社会の理解は深まっただろうか。
残念ながら治療と仕事の両立への理解と支援はまだまだ不十分のようだ。
■治療と仕事の両立を
継続雇用のためには働く時間や職員のカバー体制など職場内での調整が必要になるため消極的な事業主が少なくないようだ。さらにがんになると抗がん剤などで容姿も変わるため、患者自身が「職場に迷惑になる」などと退職していく事例が多いようだ。
一方で治療と仕事の両立を積極的に支援の企業も増えているという。時間外労働を制限・免除し短時間勤務に就かせ、後遺症や抗がん剤の副作用で体調がすぐれない場合は休養時間を与えたり、さらに働き方改革で浮いた残業代を健康保険がきかない重粒子線治療などの先進医療に500万円を上限に補助するなどだ。
八重山も毎年100人前後ががんで亡くなっており、患者はその何倍かいるとみられる。周辺にも定年まで雇用継続した人や逆に退職の例があるが、がん患者が治療を受けながら働き続けられるよう、仕事と治療を両立させやすい環境整備を各事業所に望みたい。