■法的強制力を骨抜きに
懸念していたとおりの事態である。石垣市が景観計画および観音堂・川平両景観地区計画を見直す変更原案の内容を公表した。
景観地区で法的強制力を持つ建物の高さ制限に関してただし書き条項を設け、高さ13㍍を超える建物については景観審議会の意見を聞く条件付き緩和を盛り込んだ。
景観審議会の意見に拘束力はない。これでは景観地区の法的強制力が骨抜きにされる。計画の形骸化である。川平地域は危機感を強めている。
■丁寧さ、透明性欠く作業
市は平成19年、「石垣市風景計画」を策定し、風景づくり条例を制定した。石垣らしい風景づくりを推進するためである。計画は平成38年までの20年とし、5年に1度見直すこととしていた。
策定にあたっては丁寧さ、透明性を重要視。景観を考える市民会議をはじめ検討委、審議委での議論、建築設計監理協会など関係団体との意見交換、さらにはパブリックコメント、都市計画審議会。
2年余の議論、意見交換を重ね、丁寧に、真摯(しんし)に市民や各種団体と向き合ったゆえに、市議会でも計画および条例案を全会一致で議決する「市民総意」が実現したのだ。
今回の見直しはどうだろう。前提となるべき行政評価は実施したか。市の景観づくりはどう推進され、あるいは保全され、その結果どう評価されたか。何よりその検証から始まるべきだが、なされた形跡がない。
何より市民の意見を聞いていない。公募市民と関係団体で構成する計画検討市民見直し会議を3回開催したが、計画案を一切示さず漢那副市長が議論をリード。単に意見を聞き置くための「名ばかり市民会議」だった。
その一方で、外資系リゾート開発で直接利害関係を有する川平公民館の要請を再三無視した。農振除外反対も、現行景観計画の高さ制限維持も。あろうことか市民見直し会議にも参加させず、アンケート対象にもしなかった。
地域の声を一切聞かない見直し計画は有効か。景観行政は市、市民、事業者が同じ価値観を共有しなければ何も成し得ない。策定の原点を忘れた行為というほかない。
■「国際」と「防災」のまやかし
石垣島の財産は何だろう。美しい景観と自然環境であり、この「島人ぬ宝」を守り伝えていくことこそが何より求められる。
住民説明会で市は変更計画原案のテーマを「国際観光都市の確立」と「防災」と説明した。景観行政に妥当か。
このテーマは川平地区での米国資本のリゾート開発、観音堂地区の開発、それぞれ事業者が高層建築物を望んでいることの証しだろう。
「防災」もおかしい。大津波の際住民避難に利用できる、との印象操作、子供だましのような理屈であり、事業者優先の姿勢が見える。
建築物を高層化すれば、そこからの眺望、絶景はリゾート客を十分満足させるだろう。だが、川平湾の対岸・米原から見ればどうなるか。建築物そのものが景観、眺望を阻害しないか。
景観に配慮した好例は川平石崎にある。クラブメッドである。野底からも御神崎からも石崎の山並みに収まって美しい。
中山市政が景観行政をどう捉えているか、新年度施政方針を読めばわかる。「環境と風景」の見出しはあるが、その本文中に「風景」の2文字はどこにもない。景観を守り伝える哲学、見識がまったく見られない。
計画見直しは今後、都市計画法手続きに進む。地域も市民も声を上げるべきだ。