「戦わないで 仲良くしよう」。陸上自衛隊沿岸監視隊が発足した3月28日。与那国駐屯地の正門で、稲川宏二さんはそんなメッセージを大きな紙に書いて伝えていた。与那国島を戦場にしない、フェンスの中の人たちを戦場に行かせない、フェンス外では同じ町民としてつきあいたい、との思いからだ▼自衛隊配備に反対する住民グループ、与那国島の明るい未来を願うイソバの会の共同代表として前面に立って運動してきた。小さな島社会では容易なことではない。風当たりも強かったに違いない。それは覚悟の上だったのだろう。移住して23年。島を思ってのことだった▼ところが配備計画は着実に進んだ。駐屯地はまだ完成していないのに、防衛省は当初の計画通り2015年度末に監視隊を発足させた▼悔しいが、これで阻止運動は一区切り。現実と向き合わなければならない。住民同士、いがみ合ってはいけない。そう思っていた▼「自衛隊基地の配備は初めてのこと。町民がこんなはずじゃなかったということが今後、出てくると思う。しっかりと意見を言いたい」。今後は駐屯地を監視し、住民の不安の解消に努めるつもりだった▼そんな稲川さんが10日午後、貝を採りに行ったまま行方不明となり、翌朝に死亡が確認された。49歳だった。合掌。(比嘉盛友)
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