■シンポジウムを開催
八重山には、カンムリワシ、セマルハコガメ、キシノウエトカゲ、リュウキュウキンバトなど、きわめて貴重で多様な生物が生息しており、亜熱帯の豊かな生態系が保たれている。しかし、近年の道路、宅地、観光施設、土地改良整備などの地域開発によって貴重な生態系が大きく脅かされていることも事実である。
特に、世界で西表島にしか生息していないイリオモテヤマネコは、絶滅の危機が高まっていると危惧されている。イリオモテヤマネコは、1967年に、国立科学博物館の今泉吉典博士によって新種として認定された。「今世紀最大の発見」といわれ大きな話題となり、現在では国の特別天然記念物として保護されている。しかしながら、100頭前後ときわめて生息数が少なく、真剣な保護対策が必要とされている。
専門家によれば、ヤマネコが生息する島としては、西表島は世界で最小だということである。貴重な生命が今日まで生存できたのは、西表島が豊富な水に恵まれて原生林やマングローブ群、低湿地帯が豊かに広がり、これらに育まれたカエル、トカゲ、ヘビ、昆虫類、鳥類などが生存していてヤマネコにとって多様なエサが存在していることが大きいようである。
去る13日に、那覇市おもろまちの県立博物館・美術館講堂で開催されたシンポジウム「イルムティヌヤママヤー~水あふるる森のヤマネコ~」は、野生生物の保護に関して内容の濃い示唆に富む催しであった。
主催は、林野庁九州森林管理局沖縄森林管理署および琉球大学。琉球大学や東海大学沖縄地域センターの研究者の講演を中心に構成された内容であった。
■深刻な交通事故被害
最近の追跡調査などで明らかになったことは、イリオモテヤマネコが山間地だけでなく、集落近くの平地部を含め島全体に広く生息していることである。およそ200㍍以下の山中から、海岸近くの湿地帯、川や沢沿い、水田地帯など、私たちの生活圏と重なっていることを認識すべきだと、研究者の皆さんから強い呼びかけがなされた。
特に、イリオモテヤマネコの交通事故による被害が深刻である。記録が残されている1978年以降今日までの交通事故は63件(死亡は61件)であり、昨2013年は6件の事故が起こり過去最悪となった。
さらに、今年1月1日午後8時30分ごろ、西表島高那付近で交通事故によってイリオモテヤマネコが事故死し私たちにショックを与えたことは、本紙1月5日の記事「元旦にヤマネコが輪禍 今年も事故の多発を懸念」で既報の通りである。
■「非常事態宣言」で取り組み
被害にあうのは、路上におけるエサ取りが原因となることが多く、車にひかれたカエルやカニなどを食べようと道路に出てきて輪禍にあうケースが大半のようである。
竹富町は、西表野生生物保護センターと共同で非常事態宣言を行い、夜間パトロールや注意喚起のぼりの掲示などに取り組んでおり、私たちも最新の注意を払いつつ、法定速度以下で車を運転するように心がけたいものである。
農地整備やリゾート開発等によって、亜熱帯の貴重で豊かな生態系が保持されている八重山の自然が、人間の手で徐々に破壊されつつあることは否めない。「貴重な野生生物を守るためには、人手を加えず自然に委ね、むしろ何もしないことが良い。自然の中でそっとしておいてやるほうが野生にとっては優しい」という本シンポジウムでの示唆に富む言葉をかみしめつつ、国、県や市町の行政側および私たち地域住民の本腰を入れた取り組みが望まれる。