県内で捕れる魚で三大高級魚の一つと言われるハタ科のアカジン(スジアラ)。漁業者でさえ「食べるものでなく、売るもの」というほど、食する機会は少ない。庶民には高根の花。
そんなアカジンをぜいたくに100匹使った料理の数々が昨年11月27日、南の美ら花ホテルミヤヒラの宴会場に並んだ。
石垣市と独立行政法人水産総合研究センターが共催したスジアラ養殖技術セミナーで、同センター西海区水産研究所亜熱帯研究センター(照屋和久センター長)が提供したもの。アカジンのおいしさを知ってもらい、関係者から意見や要望を聞くのが目的。これほど大量に調理されるのは、おそらく初めてだろう。さっそく試食だ。
■ハタで世界一
味をみるには、刺し身や煮付けがうってつけ。薄造りをいただく。見た目はふぐ刺しのよう。味は淡泊でうまい。氷締め直後ならぷりぷり感が増すだろう。続いて煮付け。身はしっとり、ふっくら。白身のうまみを凝縮している。アーサの粉を振りかけた皮の磯香揚げは、ゼラチンとぱりぱり感が絶妙だ。
ほかに和風カレー、島豆腐とのハンバーグ、クリームコロッケ、すしなど11種。味にくせがないので何にでも合う。
締めは、骨からだしをとった八重山そば。これまで食べてきたそばとはまったく違う味わい。「絶品」と大好評だ。調理を担当した同ホテル調理部和食料理長の中村伸彦さんによると、骨を網焼きにした後、ネギなど香味野菜を入れてじっくりだしをとり、かつおだしを加えて塩だけで味付けした。中村さん自身、「上質、上品なお吸い物に仕上がった」と驚くほどのうまみが出た。
試食した人たちは「アカジンはハタ類で世界一」と絶賛した。
■水産物も発信
養殖アカジンについて中村さんは「天然だと臭みが残るが、養殖ものは臭みがなく何にでも使える。淡泊な魚なので、食材として使いやすい」と話す。
八重山漁協の与那嶺幸広市場販売課長も「脂がのって臭みもない。これだったら魚が苦手な人でもいける。塩で食べた刺し身がおいしかった。欠点がない」と満足、「アカジンの赤が少し出るといい」と要望する。
八重山調理師会の根原哲也会長は「材料として 調理法を研究したい。農産物は石垣牛がブランド牛として先行しているが、(養殖できるようになれば)海産物ではアカジンを全国に発信できるようにしたい」と意気込む。
■陸上養殖へ
アカジンの養殖に向けては、亜熱帯研究センターが種苗生産をほぼ確立。照屋センター長は「いかに成長を早くし、色鮮やかな赤にするかが課題。これもメドがつきつつあり、近い将来、出荷できるようになるだろう」と自信をのぞかせる。
八漁協の上原亀一組合長は「経費のかかる陸上養殖では採算がとれる魚でないと難しいが、アカジンなら取り組めるのではないか」と期待している。
石垣市は、陸上養殖に向け、同センターの技術指導を受け八島町の種苗供給施設で試験養殖に取り組んでいる。まだ事業化のメドはついていないが、平良守弘水産課長は「アカジンは陸上養殖の有望種。陸上養殖をぜひ実現させたい」と話している。
ハタ類の養殖は、ヤイトハタで確立されており、鍋料理などの具材として本土に安定的に出荷されている。
アカジンは、国内ではまだ知名度は低いが、沖縄ならではのインパクトのある高級魚。小型サイズでも高単価が望める。新たなブランド魚として可能性は十分。養殖アカジンが新たな水産物の目玉となる日もそう遠くはない。