■自衛隊に島の未来託す
陸上自衛隊沿岸監視部隊配備の賛否を問う与那国町の住民投票が22日行われ、賛成が632票、反対が445票で賛成が反対を187票も上回った。毎年の人口減少に歯止めがかからない国境の島は、自衛隊に島の未来を託す形となった。
この結果、昨年4月から造成工事が始まっている自衛隊基地建設は、来年3月の完成と配備を目指してさらに加速することになった。
しかしこれで果たして賛成住民が期待する人口減少に歯止めがかかり、過疎の町は活性化するのだろうか。さらに懸念されるのは、来年3月以降の自衛隊配備後は150人の隊員とその家族の転入で、現在保革が拮抗(きっこう)する町の政治状況が自衛隊員らに大きく左右され、いびつな島になることだ。
一方で反対派が指摘する監視レーダーの電磁波による健康被害も依然不安は根強い。反対派は工事差し止め訴訟も視野に反対運動を継続する方針を示しているが、確かに後世に悔いを残すような不安や懸念があればそれを解消する運動は続けられるべきだ。
■過疎に歯止めかかるか
今回の住民投票で陸自配備賛成が多数を占めたのは、尖閣の領有権をめぐり政府が盛んに危機感をあおる中国脅威論でもともと保守的な町民に国防意識や右傾化が広がる中で過疎への危機感と、自衛隊への町有地賃貸料による給食費無料やごみ焼却施設建設など防衛省予算で町の活性化への期待。
さらに中谷防衛相が投票前に「住民投票の結果にかかわらず計画通り工事は進める」と発言するなど、現実に工事が進行する中で、いまさら反対しても止められないあきらめなどが複合的に作用したのが要因といえる。
これに対し反対派は監視レーダーの電磁波被害や戦争になったら標的になる、自衛隊支配の島になる、米軍も入ってくるなどを訴えたが、現実に工事が進み、目に見える形でメリットや振興策が示される中で自衛隊に頼らない自立への道筋を具体的に示し得ず、訴えは広がりを欠いた。
しかしそれでも投票総数の4割強が反対の意思を示した。その島に自衛隊が入ってくるが、反対住民とどう向き合うことになるだろうか。
■対立が石垣市に飛び火?
町長ら賛成派は自衛隊配備のメリットとして人口増や活性化のほかに児童生徒の増加、雇用拡大、税収の増加、隊員の農家支援などボランティアや地域行事への参加、災害時の迅速対応などを挙げたが、果たしてそうバラ色にうまくいくだろうか。特に人口減に対しては自衛隊員以外は歯止めがかからず活性化も工事期間の一時的だったという先行事例が他の離島にあるからだ。
それより何より7年前に始まった自衛隊誘致は小さな島を二分、「潤うのは推進派の一部だけ」と大きなしこりを残した。その対立が今度は石垣市に飛び火することが懸念される。
与那国など国境離島の振興をおろそかに、逆に離島の軍事化を進める政府が今度の与那国の住民投票結果に自信を得て石垣、宮古での自衛隊配備を強行する可能性が強くなったからだ。観光の島で市民二分の対立は避けたい。