■県内の芸能文化にも強い影響
俗に「詩の邦・歌の島」と言われる八重山には、ユンタ・ジラバ・アヨーなどの労働歌や神歌に加えて、古謡を淵源(えんげん)として三線や笛太鼓に乗せて歌われる数多くの節歌があり、県内各地の琉球舞踊や民謡などに強い影響を与えていて、芸能文化の宝庫としてあまねく知られている。
八重山の先達は、自然への感謝と神々への畏敬の念、日々の暮らしの厳しさや人頭税の重圧などさまざまな情景の中からおのずと湧き出てくる美しい音楽の数々を創造し、私たちに残してくれた。
類いまれな美しい旋律と豊かに紡がれた詩句を私たちが正しく受け継ぎ次の世代に残していくことは当然であり、これら個性豊かな文化は地域の人々や文化関係、行政、報道関係機関等が一体となって守り育てなければ、やがては消滅する運命を避けられまい。
特にとぅばらーまは、旋律が美しく、深く、広く、そしてどのような言葉をも受け入れる八重山音楽を象徴する歌である。八重山地域のみならず、本島各地や周辺離島、本土各地でも受け入れられ、歌われていることはご承知の通りである。側聞するところでは、海外移民の多い南米各地でも受け入れられ、歌われているそうである。このようにいつかは国境を越え、世界各地で独自の「とぅばらーまの世界」が創造されていくかもしれない。
■八重山歌の神髄「とぅばらーま大会」
戦後の1947(昭和22)年に始まり、今年で第68回を迎えた市主催の「とぅばらーま大会」は、去る9月6日の旧暦8月13夜に、新栄公園で開催され、23人の出場者の中から比屋根祐さんが最優勝賞に輝き、多くの市民や観光客を魅了した。
また、北部八重山郷友会主催第5回「北部トゥバラーマ」大会も9月6日に名護市で開かれ、14人の参加者の中から瑞慶山大地さんが最優秀賞を獲得。さらに10月13日に糸満市で開催された「エーマいとまん会」主催の第5回「とぅばらーま糸満大会」は、23人の中から若い比屋根徳人さんが優勝し、会場から盛んな拍手を浴びた。
2年に1回開かれる在沖八重山郷友会連合会主催の「全島とぅばらーま大会」を加えると、実に四つのとぅばらーま大会が開催されている。一つの歌だけで、四つの大会が開かれ多くの人々に愛され支持されていることは、いかにとぅばらーまが素晴らしい歌であるかの証左である。
■各大会の上位入賞者で祭典
とぅばらーま以外にも、八重山には素晴らしい歌が数多く「でんさー節大会」「しょんかねー大会」「小浜節大会」、本日、野底小学校グラウンドで開催される「野底つぃんだら祭り」など、多くの歌が愛唱されてきた。
さて、これら個性的で地域性に富んだ歌をじっくり聴いてみたいと多くの八重山歌愛好家、愛唱者が思っているのではないだろうか。優勝、準優勝者など上位成績を収めた皆さんの素晴らしい歌声をぜひ聴いてみたい、と思うのが人情だろう。
おおらかで自由な心の発露や伸び伸びとした歌声を八重山の青空、大海原、大地の匂いに浸りながら、歌の祭典で八重山の風土や芸能を愛するすべての人々に楽しんでほしいものである。行政機関、文化関係団体、われわれマスコミも含めて「秋の夜の夢」に終わらせてはなるまい。