「市民」の定義を「市内に住所を有する人」に限定し、住民投票規定と最高規範性を削除する改正石垣市自治基本条例は近く施行される見通しとなっているが、市議会野党からは市民生活や市民協働への影響を懸念する声が上がる。住民登録をせずに住んでいる人の権利が保障されない可能性があるからだ。
「市民」の権利を定めた第5条によると、市民は▽地域のまちづくりを主体的に行う権利▽市政に参加する権利▽市政に参加する権利を行使するために必要な情報を知る権利▽行政サービスを受ける権利―が保障されている。
改正案提出者の友寄永三氏は「住民登録をしていない外国人や観光客、反社会的な個人・団体までも市民になる」と改正理由を説明した。
これについて「暴力団・反社会的組織に属する構成員、外国人も住民基本台帳法の規定で住民登録を行うことが求められており、改正後の定義でも排除できない。結果的に市内に一時避難するDV被害者、ホームレス、コロナ禍で職と住居を失った市民らが排除され、市民サービスを受けられない可能性がある。今回の改正はその根拠を与えた」「竹富町の高校生は市の行政サービスを受けられないのか」と指摘する。
有権者の4分の1以上の署名で直接請求できる権利と市長の実施義務を規定する第27・28条を全部削除されたことにも「市民の政治・行政に参画する入り口が閉ざされる。地方自治法の住民投票請求は50分の1とハードルは低いと言うが、議会勢力で多数にならないと(可決されず)市民の声が届かなくなる。それを禁止するのは条例だった。権力者に対して何もなすすべがなくなる」と危惧する。
「市民への影響をあぶり出し、条例改正のおかしいところを出していきたい」として条例改正による影響を調査していく考えだ。
■「追認しない」野党、対応模索
再議権行使求める
野党連絡協議会の宮良操会長らメンバーが29日、控室で会見し、自治基本条例改正について「追認するわけにはいかない。市民から行政不服審査、行政訴訟などの意見が出てくると思う。話し合いながらできる限りの対応をしていきたい」と述べた。
同条例の改正手続きについて「地方自治法に基づく議員の提案権は認めるが、自治基本条例には改正手続きを定める規定がある。一般法と個別法の関係から個別法が優先されるため条例改正は第43条の手続きで提案されなければならない」と指摘した。
中山義隆市長に対し「自らの改正手続きの正当性、他の施策に与える影響を考えると再議権を行使しなければならない」と要望した。
特に「市民」の定義が変わることに関して「多くの条例との齟齬が生じるとともに、市民生活に多大な影響がある。市長は『議会が決めたこと』と無責任な態度をとることは許されない」とした。
ただ、中山市長は「答申に沿ったもの」として再議権を行使しない考え。「市長の意向通り提案されたことが明らかになった。出来レースだ」(宮良氏)、「二元代表制を口実に議員提案を良しとするのは行政の一端を与党に丸投げするものだ」(長浜信夫氏)、「廃案を求めていた友寄氏に任せれば大丈夫ということだったのか。互いにウィンウィンだったのか」(新垣重雄氏)と疑問を呈した。
住民投票規定削除にも「前回の改正案は与野党で通した。この5年間に何があったか。自衛隊配備問題が根底にある。反対する市民の意見をつぶそうという動きだ」(大濱明彦氏)と批判した。