■「愛情あり」の結果
ワインの風味を追い求め、その醸造に精魂を傾ける職人を取材したテレビ番組を見た。原料のブドウを損ねぬよう極力手仕事に徹する等、さながら掌中の宝に対するような姿が印象的であった。生き物と呼んだ醸造中のブドウに熱い視線を注ぐ職人のいちずさに原料のブドウは美味・滋味で応えてくれるに違いないと思った。
その内に久部良小学校5年生児童の理科実験を思い出した。発芽に必要な「水・空気・適度な湿度」の3条件に「愛情」の観点を加えた。3条件に差がないことを確認した上で「愛情あり」の種には「かわいいなあ」等の温かい言葉をかけ、他方「愛情なし」の種には「ばか」等の言葉を投げつけた。そんなことを何回も何日も繰り返すと前者は順調に生育し、後者は発芽したものの固まったままであった。
■他を思いやる言葉
新聞やテレビで子どもへの大人の言葉遣いに疑問を呈する投稿や声に接することがある。「どならない子育て練習セミナー」等言葉かけの大切さを扱った講演会やイベントの類も、とみに増えたように感じられる。本年度「婦人の主張」県大会県知事賞の演題は「人を褒める力」であったし、先の人権作文コンテスト県大会で最優秀賞を獲得した石垣第二中学校の具志堅武琉君の演題は「言葉の大切さ」であった。
これらは他を思いやる言葉かけが後退しているかもしれない世相の裏返しだろうか。具志堅君の主張の中に元プロ野球選手の野球教室で「こういう打ち方をするから沖縄にはいい選手がいないんだ」とチームメートに投げかけられた言葉にショックを受けたとあった。そのことに元プロは気付かなかっただろうが、上手になりたいとひたむきに野球に向き合う少年たちに冷たい水を浴びせるような物言いである。
■自己肯定感こそ土台
「婦人の主張」で県知事賞に選ばれた八重瀬町の金城苗子さんは互いに褒め合い認め合う婦人会活動を通し自分に自信をもてるようになり、今では積極的に他の人を褒めるようになったと発表した。一方野球教室でショックを受けた具志堅君はその経験から自らを振り返り、「相手の立場に立ちその思いに共感し思いやりのある言葉をかけられるようにしていきたい」と結んだ。両者に共通するのは「支持的風土」への志向であり、そこで高められる自他への肯定感である。
さて自己肯定感なしに夢を描くのは難しいだろうし、親のため教師のため社会のために向上しようとは思いにくいだろう。本年度の全国学力・学習状況調査結果にも「小中ともに自己肯定感(自分には良いところがある)が高いほど好成績となる傾向があった。過去の調査でも同様」とある。学校でも家庭でも社会でも、もっと「子どもの良い点や可能性を見つけ褒める」ことで自己肯定感を高め、やる気に向かわせることが大事だろう。間違っても「暴言で脳を萎縮」させてはならない。
沖縄子どもの未来県民会議の報告に「貧困家庭の子どもの自己肯定感が、そうでない世帯の子どもに比べて低い傾向にある」とあった。こちらは政治・行政に突き付けられた喫緊の課題だ。