安倍政権が来年10月に消費税を増税し、高齢者に偏りがちな社会保障制度を子育て世代を含む「全世代型」に転換するとしている。財政再建はまた先送りされるのだろうか。
■増える外国人労働力
9月の自民党総裁選で3選された安倍首相は、自身の任期について「今後1年間は働き方改革に集中し、医療・年金改革はその後の2年間で実現する」との考え方を示した。
今臨時国会で議論されているのは、現行の技能実習生制度に加えて外国人労働者の拡大、長期在留に道を開く入国管理法の改正である。財界の要請だ。
少子高齢化が進むほど労働人口が減少するのは、避けられない現実。このため政府は技能実習生制度により、外国人労働力を実質的に増加させてきた。
厚生労働省によれば、その数は2017年で128万人にのぼる。出身国は3割が中国で、次いでベトナム、フィリピンなど。県内のコンビニでもミャンマーなどの若者が働くのを見かける。
外国人とともに働く。多様な人たちと多様な文化、ともに生きる時代だ。入国管理法が改正されれば、さらに外国人労働者の門戸開放が進む。
外国人も健康保険や年金保険など日本人と同じルールで働く。当然、社会保障の給付が増えている。
「全世代」以前に「国際色」が加わっているのに、社会保障をめぐる議論は現実に追いついていない。
■「全世代型」の内実
政権がいう「全世代型社会保障」の内容をみる。
得られる実質増税分4・6兆円のうち2兆円を幼児教育、保育料無償化など子育て支援充実に充てることで、高齢者に偏りがちな社会保障政策を子育て世代を含めた「全世代型」に切り替えると強調している。
その具体的な中身となる政策パッケージは「年内に取りまとめる」(菅官房長官)と、何ら示していないのが実情だ。
「1億総活躍」「女性が輝く社会」「人づくり革命」などと同じ、中身が伴わない大仰なキャッチフレーズでしかない。
そもそも、日本の社会保障制度は人口ピラミッドが末広がりの昭和30年代に確立された。多くの現役世代が少ない高齢者を担保する。制度の趣旨である。
その前提が少子高齢化で崩壊してゆくのを知りながら、長年にわたり無策を続けてきた政治にツケが回ってきている。
「年金100年安心プラン」も、民自公3党合意の「社会保障と税の一体改革」も、もはや風前のともしびと言えよう。
「待機児童ゼロ」も「介護離職ゼロ」も先送り。国民に痛みを伴う社会保障改革案が示されるのは、おそらく来年7月の参院選後。
団塊世代を想定した医療・介護の報酬減、負担割合の増、年金先細りなどである。
■優先順位が違う
同時に、何のための消費税増税か、表裏の関係となるべき財政再建が忘れ去られている。安倍政権は、基礎的財政収支の黒字目標を20年度から25年度に先送りした。
景気対策のプレミアム商品券や軽減税率など小手先に集中し、本来あるべき財政再建を置き去りに議論は混迷を深めている。
また、国民に増税を押し付ける前に、政治は自ら身を切る改革をしただろうか。参院の議席を6増するなど逆行しているのが実情。
人口減少、地方衰退、貧困、子育て支援。さまざまな政策課題が顕在化している。改憲など民の暮らしに無縁。安心できる暮らしこそ必要だ。
政治はあるべき将来像を描けているか。優先順位が違うのではないか。