■沖縄の苦難に向き合う
天皇、皇后両陛下が先月27~29日に沖縄を訪問した。来年4月退任の両陛下には恐らく在位中最後の訪問だ。そして今回は28日に日本最西端の国境の町与那国も訪問。島の人々の大歓迎の中、伝統芸能などを楽しんだ。
思えば両陛下は薩摩の琉球占領、明治政府の琉球処分、20万人余が犠牲になった「鉄の暴風」の沖縄戦、その後の27年間の米軍占領、そして今に続く米軍基地押し付けなど沖縄の苦難の歴史と向き合い、沖縄の人々に思いを寄せ続けてきた40年余と言える。
その両陛下の最初の訪問は皇太子時代の戦後30年目、本土復帰3年目の1975年7月だった。以来今回で11回を数える。その間の2004年1月には石垣、宮古も訪問している。
しかし迎える沖縄の人々の思いは複雑だった。天皇の名の下での沖縄戦で本土防衛の「捨て石」にされ、さらに敗戦で沖縄を米軍に差し出すという昭和天皇の沖縄メッセージが明らかになり、むしろ反発が強かった。それが初訪問時の皇太子ご夫妻への火炎瓶投げつけや車列への牛乳投げつけ、沖縄国体での日の丸焼き打ちなどだった。
■国民全体が心尽くして
しかし陛下はその夜に談話を発表。「(沖縄戦などで)払われた多くの尊い犠牲は一時の行為や言葉によってあがなえるものでなく、一人一人この地に心を寄せ続けていくことをおいて考えられません」と沖縄への思いを語っている。以来その思いを体現し、戦没者慰霊だけでなく、沖縄の伝統芸能や歴史・文化にも触れてきた。
こうした沖縄に向き合い続けた姿勢が今では県民の複雑な思いやわだかまりを解きほぐし、天皇制への県民感情が大きく変化しているのは確かだ。
政府主催の沖縄無視の「主権回復式典」に強く反発したという陛下の思いはほぼ毎年の誕生日会見で語られる。
「沖縄は飛行機で島に向かってゆくと本当に美しいサンゴ礁や緑の美しい海に囲まれています。しかしここで58年前に多くの血が流されたことを常に考えずにおれません。沖縄の人たちが被った災難は日本人全体で分かち合うことが大切だと思います」(12年)
「沖縄が日本復帰したのは31年前だが、復帰したことが良かったと思えるよう日本人全体で沖縄の歴史や文化を学び、心を尽くすことを切に願っています。私自身はそのような気持ちで沖縄理解に努めてきました」(03年)
■理不尽で冷淡な安倍政権
しかし陛下の願いは日本人全体には届かず、その多くは米軍犯罪やヘリ落下など事故が相次ぐ沖縄の米軍基地の現状を見て見ぬふりで、むしろ政治家や保守系の人々から沖縄たたきもある。
特に安倍政権は冷淡で、むしろ石垣にも自衛隊配備計画を進めるなど、再び沖縄を「捨て石」にするかのように日米で軍事要塞(ようさい)化を強めている。
しかし安倍政権は永遠ではない。陛下の思いが次期天皇に継承され、沖縄が強権に屈することなく思いを訴え続ければ、陛下も願う「基地負担を日本人全体で分かち合う」日は必ず来るはずだ。逆に県民が結束せず、多くの政治家や経済人らが利害や保身で政権に追属するなら、理不尽な沖縄の現状を変えることは到底困難だろう。