■「国難」招いたのは誰か
安倍首相は臨時国会冒頭で衆議院を解散し、10月10日公示、22日投開票の選挙日程を決めた。
野党第一党の民進党は、小池東京都知事が主導する新党「希望の党」への合流を決断。
予断を許さないが、実現すれば野党再編が一気に加速化し、「自民VS希望」の政権選択選挙の様相が色濃くなった。小池都知事には首相候補として国政転出待望論が高まる。
安倍首相は25日の記者会見で、「疑惑隠し解散」との野党の批判を受けて解散理由を少子高齢化と緊迫する北朝鮮情勢を挙げ「国難突破解散」と主張した。
「国難」と言うより、森友・加計学園やPKO日報など疑惑を隠すための首相個人の「難局」を突破しようとするものでしかない。
また、消費税使途変更が解散・総選挙を行うに足りる理由とは思えない。増税まで2年、議員任期も1年ある。国会で議論を深め、国民の理解が進んだうえで選挙すべきだ。
増税分のうち、国の借金返済4兆円の半分、2兆円の使途を教育無償化などに充て、社会保障を全世代型に変えるという。それは「財政再建」を後回しにし、若い世代に負担を先送りすることを意味する。それこそ国難である。
■強権的手法を継続させるか
今回の総選挙は、集団的自衛権行使や安保法制などの憲政破壊や、数の力を頼む強権的手法、「安倍1強」のおごりやひずみなど、まさしく「安倍政治」審判の機会でもある。
首相は衆参国政選挙ではアベノミクスなど「経済最優先」をアピールするが、多数を握れば特定秘密保護法、安保関連法制、テロ等準備罪法など選挙では触れなかったことを数の力で成立させてきた。強権的手法だ。
こうした批判があることに配慮してか、今回は重点公約に憲法9条改正を明記するという。だが、実際に選挙では「教育無償化」や「人づくり革命」など、国民の合意を得やすいキャッチフレーズを連呼するのではないか。
そもそも9条改正にしても、教育無償化のための消費増税使途変更にしても自民党内での議論が一切なく、トップダウンで公約化された。すべてが官邸主導で党そのものが追認機関化していることに不満がくすぶっている。
野党要求の臨時国会召集を3カ月放置し、しかも首相の所信表明演説も、それに対する代表質問も予算委員会質疑もない。
これほど国権の最高機関が軽んじられたことがあろうか。野党の発言機会を奪い、疑惑を追及させない。疑惑隠しの批判も仕方あるまい。
■台風の目、小池新党
小池新党「希望の党」は「寛容な改革保守」「しがらみのない政治」を掲げ、安倍政権に対して「消費増税凍結」「原発ゼロ」など明確な対立軸を示した。
昨年の都知事選、7月の都議選に続き小池劇場と呼ばれた旋風を巻き起こせるか。「自民党の補完勢力」との厳しい批判もあるが、いずれにせよ台風の目となったのは事実だ。
野党第一党の民進党は、党内混乱の悪弊から抜け出せず解党、希望の党合流という奇策に出た。支持組織連合も同調する。中道リベラルが保守に飲み込まれてゆく。
安保法の賛否で選別対象のリベラル系議員はどう判断されるのか。首相経験者も排除され、注目だ。
共産党や社民党などの野党共闘はどう戦うか。非自民票を食い合う候補乱立は避けられるのか。
安倍政治の是非を問い、大いに議論を交わしてほしい。有権者には政策を見極める必要があるのはもとよりである。