ラジオや草創期のテレビ放送作家、作詞家や司会、随筆など多くのジャンルで多彩に活躍した永六輔さんが亡くなって早や1年。全国をくまなく旅する生涯の旅人だった。八重山へも30年以上前から訪れている▼盲目の歌手長谷川きよしさんの石垣コンサートに同行した時。永さんが黙って竹富島観光へ行き、長谷川さんに怒られた。「空気や匂い、肌の感覚で見えるんだ」と。永さんがコンサートで紹介していた▼その永さんが全国の職人の何気ない言葉を集めた著作に「職人」(岩波新書)がある。「子どもは親の言うとおりに育つものじゃない。親のするとおりに育つんだ」。胸にすとんと落ちる。八重山言葉では「ふぁーや 親んどぅ似ぃ」(子は親にぞ似る)という。そのとおりだ。子どもは親をよく見ている▼損得ではなく人としての生き方だろう。「職業に貴賤はないけど、生き方には貴賤がありますねェ」という言葉も拾っている。職人としての矜持。明治だけでなく昭和も遠くなった感がある▼こんなのもある。「人間、ヒマになると悪口を言うようになります。悪口を言わない程度に忙しさは大事です」と。本欄のことか。永さんが遠い空の上で笑っておられよう。悪口とフェイクニュース(偽り)だけは固く誓って扱わないことを信条としよう。(慶田盛伸)
↧