豚肉を混ぜた米を葉っぱで包み、さらに月桃でくるんで蒸した料理を食べた。大きさも形も、ちょうど眼鏡ケースほど。台湾の先住民族のひとつ、パイワン族の村の収穫祭で出された「チナブ」だ▽北回帰線の南。海を臨み、山を背にした村は暑さがたまらないが、日陰の風は穏やか▽料理はほかにもあった。切った豚肉をネギとあえ、豚の血で固めたものを豚の腸に詰め込んだ文字通りの腸詰は「カピル」。本当のソーセージはこういうものをいうのか。アワを醸した自家製酒「マカチ」は甘酸っぱい▽そこにあるものを食べ、実りを喜び合う▽収穫祭に観光客はいなかったと思う。60代の竹富島出身者から「ぼくが小さいころは、種子取祭は島の人だけでやっていた」と聞かされたことを思い出した▽その一方で、頭目のひとり、高徳明さん(67)=パイワン名・プオン=は「この場所を日本にも紹介して、観光客が来てくれるようにしたい」と話す。高さんは私を連れてあちこちを回り、木工や刺繍、陶芸などの魅力を伝えようとした▽外から人が来れば、村は刺激を受け、ときには議論も起きるだろう。カギは、だれが決めるのかということかもしれない▽「チナブ」も「カピル」も「マカチ」もどれも手作りだった。自分たちの村の切り盛りも自分たちで。(松田良孝)
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