「1億総活躍社会」がかまびすしい。アベノミクス新3本の矢のことである。▼「1億」からして違和感が漂う。太平洋戦争中は「進め1億火の玉だ」と戦意をあおり、戦局困難に陥ると「1億総玉砕」と国民を道連れにしようとし、戦後は「1億総ざんげ」と戦争責任をあいまいにした。時は流れてテレビの普及を「1億総白痴化」といい、生活安定を「1億総中流」と呼んだ。「1億」は「猫もしゃくしも」を意味する風刺に変わった▼矢の的(数値目標)は明確だ。が、矢(実現手段)がどこにもない。特に第2の矢「夢を紡ぐ子育て支援(希望出生率1.8)」が最も怪しい▼石垣市でも保育所に入れない「待機児童」が顕在化した。子の出生数がもっと多かった時代、誰でも保育園に入れたのに今はなぜ? 安心して子を預けられなければ、親たちは活躍できない。なのに、国はもっと「産んで」と言う。暮らしに寄り添っていない▼国政を揺るがす匿名ブログ「保育園落ちた日本死ね!」に広がる共感は、「待機ゼロ」と言いつつ、子育て支援を放置してきた国の無策に対する母親たちの怒りであり、「1億」にすら入れず活躍できない家族の、国民の悲しみである▼辺野古問題で国と厳しく対峙(たいじ)する「沖縄」は、「1億」に入っているだろうか。さて。(慶田盛伸)
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