28㍍先にある直径36㌢の的に矢を放ち、命中本数を競う弓道。福岡の篠原良昭錬士六段らが禅の文化の弓道を「八重山で浸透させたい」と2013年2月に開いた弓道体験会をきっかけに、島内の弓道愛好家ら18人が同年3月、「桃弦会」(小林昌道会長)を立ち上げた。現在会員は29人。メンバーは歯科医師や市職員、放射線技師、介護職員、ホテル従業員などさまざま。八重山ではなじみの薄かった弓道が、徐々に広がりをみせている。
同年8月から始めた小宮久典さん(56)は「毎日弓が引きたくてたまらない」と話し、悪天候で稽古が中止となると残念で仕方がないそうだ。
自身の弓道に対する思いを「恋している感じ」と表現。まさにハートを射止められた。
小宮さんは、無心で矢を放ち直径6㌢の「星」と呼ばれる的の中心を射止めたときのことを振り返り、「震えた」と語った。先生の指導を受け、自分の射方を自己分析して工夫することで「やればやるほど、上達する実感がある」とも。
そして、何より弓道の持つ精神的な奥深さが「面白い」と語る。
1924年に東北帝国大学に招かれたドイツの哲学者、オイゲン・ヘリゲルが自らの体験を記した「弓と禅」。物事の考え方の違いや禅の精神の理解に戸惑ったヘリゲルの経験を追体験している感覚があるという。
初心者に基本動作を指導する新人教育係の梅本美知子さん(64)は会員に「ずっと弓道を続けてほしい」と期待を寄せる。
年に2、3度来島している篠原錬士六段と梅本さんが口をそろえるのが、かつて八重高に弓道部があったように「高校生にも広めたい」ということ。雨の日でも稽古できる道場も熱望している。
「八重山で弓道広めたい」篠原良昭錬士六段
桃弦会発足の立役者、福岡の篠原良昭錬士六段は数寄屋建築の棟梁(とうりょう)でもあり、篠原建設と篠原茶室研究所代表の肩書を持つ。
篠原氏は茶室の仕事を得たことから、「お茶の世界を知らねば茶室は分からない」と茶道も始めている。「茶道は禅とのかかわりが深い。禅の世界では、弓道は立禅(立って行う禅)」と篠原氏。棟梁と茶道、弓道はつながっているのだ。
そんな篠原氏と桃林寺の接点は、2010年に九州国立博物館で開催された開山無相大師650年遠諱記念特別展「京都妙心寺〜禅の至宝と九州・琉球〜」。同博物館の茶室オープンに携わっていた篠原氏は、桃林寺の仁王像(阿形、吽形金剛力士像)も出展されたこのイベントで桃林寺の存在を知る。
30年ほど前からシュノーケリングで八重山を訪れていた篠原氏と桃林寺がここでつながった。
以前から八重山で弓道を広めたいと考えていた篠原六段。小林住職に相談すると、「稽古で境内を使ってよい」と快諾を受けた。その後、2013年2月の体験会を経て、桃弦会が誕生した。
【メモ】桃弦会は毎週木、土曜日に桃林寺、日曜日にサッカーパークあかんまのフットサル場奥で午後2時から稽古を行っている。