石垣市の資源ごみの収集日となっている月曜日から水曜日までの3日間、市街地のあちこちでアルミ缶を収集するお年寄りの姿が確認できる。缶でいっぱいになったごみ袋を、自転車やバイクの両脇にぶらさげたり、乳母車などの台車に乗せたり。こうして集めた空き缶を自宅に持ち帰り、ある程度たまると、引き取り業者に売っているのだ。4月から始まった飲料缶以外の缶類の資源化に伴い、石垣市が検討している空き缶の抜き取りの禁止について、どう思っているのか。取材を進めていくうち、生活に困窮する高齢者の実態がみえてきた。(比嘉盛友、砂川孫優記者)
■年金だけでは…
60代の女性は10年ほど前、ひざを悪くして職場を解雇されたのを機に、空き缶を集め出した。1人暮らし。年金はわずか。
「親戚が多く交際もあるので年金だけでは生活ができない。病院にも通わなければならないのでお金がかかる。3食とれず、2食のときもありますよ」
周囲から生活保護を薦められたが、自宅の土地建物があるので要件に該当しなかったという。空き缶で得る収入は月に3000円とわずかだが、「これをやらないと生活ができない」とため息をつく。
今年から空き缶集めを始めた70代の女性も「年金だけでは生活ができず、かといって働き口もない。1日で2㌔集めても120円にしかならない。生活が困窮しているので、生きるために仕方なくやっている」、回収歴10年の80代男性は「年金はあるが、子どもが取るので、空き缶を売ってご飯代、小遣いにしている」とこぼした。
■生活保護はいや
60代後半の男性は年金収入もなく、空き缶が唯一の収入源。「生活保護?税金をもらって生活するなんてとんでもない。やりたくない。まだ体が健康なので自分で働いて稼ぎたい」ときっぱり。
ただ、生活は厳しく、「お金がないときはスーパーのごみ箱で弁当をあさることもある。恥ずかしい話だが、そうしないと餓死する。だから空き缶を集める」という。
「中には親切な人もいる。アルミ缶だけを別の袋に分けておいて出してくれる。そういうときは、ありがとうと言いたい」と手を合わせ、頭を下げた。
■不安、怒り
お年寄りの話によると、換金額はキロ当たり45~70円。ビール缶を計量すると、350㍉㍑缶が17㌘、500㍉㍑缶が21㌘になるので、それぞれ約59個、約48個で1㌔分になる。
月に3000円の収入を得るという60代女性の場合、キロ当たり70円として350㍉缶で2528個集めていることになる。雨の日も欠かさず空き缶を収集し、月に5万円程度を稼ぐという80代前半の男性の場合は4万2142個だ。キロ当たり45円だと、それぞれ3933個、6万5555個とさらに多くなる。空き缶でパンパンになった袋をいくつもぶら下げているのにも納得がいく。集める労力も相当なものだ。
抜き取り禁止について、取材に応じたお年寄りたちは「ほんとうに禁止されるの」と不安な表情をみせたり、「とんでもない」と怒りをぶつけたりした。
60代後半の男性は「だったら福祉(生活保護)をもらいにいくよ。抜き取りを禁止したら、福祉を受ける人が増えるだろう」と予想し、70代女性は「生活困窮者の現状を分かってほしい」と訴えた。
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【メモ】石垣市環境課は、一般廃棄物最終処分場の延命化などを目的に、飲料缶に加え缶詰缶やスプレー缶などの缶類も4月から資源ごみとして収集している。当初は関係条例を改正して4月から飲料缶の抜き取り禁止を予定していたが、「お年寄りの収入を奪うことになる」との指摘もあることから実現していない。
一方、市民からは「アルミ缶だけを抜き取って散らかしている」との苦情も受けており、同課は対応に苦慮している。取材したお年寄りに散らかしている様子はなかったが、同業者の中にはごみ袋からアルミ缶だけ抜き取った後、袋を開けたまま放置する人もいる、と聞いた。