台湾出身の作家、李琴峰さんの芥川賞受賞作「彼岸花が咲く島」は、与那国島に舞台を借りた作品だ。男女3人の若者が、ポジティブに歩んでいく姿が描かれる▼あくまで創作である。それでも、済州島の人々が与那国島に漂着した1477年の出来事やサンアイイソバに通じる場面や人物が設定されていて、どうしても与那国島を意識してしまう。おなじみの島の景色が作品の世界観によって塗り替えられていくような意外性がおもしろい▼作品に登場する島民たちは、排外主義的な暴力から逃れてきた人々だ。その人々もまた、本来の島人たちを暴力で抑圧した過去を持つ。圧迫と被圧迫が複雑に入り組んだ筋立ては、作者が生まれた台湾という土地がはらむエスニシティの重層性を思い起こさせる▼ひとりの女の子が「〈島〉で生きている人たちのことを考える方が大事だと思うよ」と語る場面がある▼終戦直後のいわゆる「密貿易」からもわかるように、与那国島は外部の要因に左右されてきた。島は外とつながり合って成り立っている。女の子のせりふは、だからこそ、島で暮らす人の主体性が必要なんだと言いたげに聞こえる▼与那国町長選は8日に終わった。徐々に緩むテンションのなかで、島を描いた文学は与那国島の人たちにどう響くのだろうか。(松田良孝)
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