■平和享受とは
石垣市議会の12月定例会で、中山市長の発言を聞いて耳を疑った。
防衛省が石垣島を想定して検討した離島奪還作戦シミュレーションを質問した前津究議員への答弁で「あらゆることをシミュレーションし、臨機応変に対応すると思う。石垣島だけを想定したシミュレーションではない」「自衛隊の石垣島への配備がイヤというなら沖縄の米軍基地負担を本土に求めることは通らない。平和だけを享受して負担だけを押し付け、石垣島にはいらないというのは宮古、与那国にも失礼だ」と述べ、改めて南西諸島への配備計画に理解を示した。
沖縄の米軍基地負担を本土に求めることが、平和だけを享受して負担を本土に押し付ける、という論理は本末転倒であろう。基地の過大な負担やそこから派生するさまざまな騒音や犯罪など、基地被害に泣く人々が目に映らないのだろうか。
辺野古新基地建設は、飛行場や軍港が建設される予定で、伊江島飛行場、高江のオスプレイ基地を結ぶ、日米同盟の一大軍事拠点となり、沖縄本島中南部の基地被害を北部地区へ拡大することだ。基地こそ住民の平和を脅かし、危険にさらしている。
中山市長は尖閣問題で翁長前知事を中国には抗議をしないと批判していた。ならば、中山市長は、住民を危険にさらす治外法権的な日米地位協定改定を日本政府や防衛省に強く訴えるべきではないか。
■自衛隊員だけを守る報告書
石垣島奪還作戦のシミュレーションは石垣島だけを対象としたものではないというが、では別の対象はどこか。臨機応変などありえるのか。
防衛省は住民保護など眼中にない。軍事評論家の小西誠氏によると、防衛省は「島しょ部における事態対処での傷病者の治療・後送」について委員会を発足させて報告書をまとめていた。
それによると、離島で多数の自衛隊員が負傷した場合、患者を連隊収容所から師団収容所、野外病院などへ運び、さらにヘリで沖縄本島へ、航空機で本土へ緊急輸送することが明記されている。住民の緊急輸送や治療は予定されていないという。
「自衛隊は自衛隊しか守らない」という軍隊の本質が明らかとなった。島しょでの離島奪還作戦は、前津議員が指摘するように、住民に玉砕を強いる戦法であろう。
防衛省が戦闘のシミュレーションや負傷隊員の輸送などを想定しているのに、武力攻撃事態が起き有事の際の住民避難方法である「石垣市国民保護計画」で具体的な避難実施要領が作成されていないことが内原英聡議員の質問で明らかになった。
■住民訴訟で損害賠償も
辺野古基地の賛否を問う県民投票に中山市長は否定的な見解を示した。石垣市も宮古島市に次いで県民投票を実施しないのだろうか。
実施しなければどうなるか。武田真一郎成蹊大学法科大学院教授は「琉球新報」紙上で、県民投票条例は「地方自治法252条の2に基づき、投票資格者名簿の調整、投開票の実施、その他規則で定めるものは市町村が処理する」と定めており、地方自治法の規定により県の条例が制定されたため市町村はその事務を実施する義務があるという。
議会が反対しても、市町村が実施しなければ有権者の投票権を侵害し、住民訴訟によって損害賠償責任を追及される恐れがあると述べている。
市民の中には投票が実施されない場合、訴訟を起こすとの話もある。
市長や議会に市民の投票権を奪う権利はない。