八重山研究や芸術文化の振興に顕著な業績を挙げた人を表彰する第34回八重山毎日文化賞(八重山毎日新聞主催)の選考委員会(波照間永吉委員長、委員6人)がこのほど開かれ、正賞に八重山を代表する詩人・八重洋一郎氏(75)=本名・糸数用一、石垣市石垣=と、実演者、研究者として八重山民謡・芸能の継承と研究に取り組む當山善堂氏(74)=那覇市首里、竹富町黒島出身=の2人。特別賞に、波照間島を中心に広く八重山の歴史・文化を研究する玉城功一氏(81)=大川、波照間出身=、奨励賞に、八重山焼きの再現に取り組む陶芸家の宮良断氏(43)=新川=がそれぞれ選ばれた。贈呈式は18日午前11時からアートホテル石垣島で開かれる。
【正賞】八重洋一郎(やえ・よういちろう)氏(75)
本名:糸数用一(いとかず・よういち)=石垣市石垣=
1942年、石垣市石垣生まれ。東京都立大学(現首都大学東京)哲学科を卒業後、世田谷区で数学塾「南鷲セミナー」を経営しながら、25歳ごろに詩作活動を開始。これまでに11冊の詩集を出し、沖縄のみならず現代日本の詩壇でも高く評価されている。
長く東京で活動してきたが、98年に帰郷後も旺盛に詩作を続けている。84年の「孛彗(はいすい)」で第9回「山之口貘賞」、2001年の「夕方村」で第3回「小野十三郎賞」を受賞。昨年刊行した「日毒」は、近年の精神と思想を鋭く表現したもので、日本と沖縄の負の歴史を告発する内容。八重山で発行されている「月刊やいま」でも詩作品と解説を連載している。
これまでの活動について「時代ごとに詩で表現してきた。どの詩集にも思い入れがある」と振り返る。
受賞に「八重山で評価されたことは非常に大きい。もっと発信していいという激励になる。20年たってやっと古里に戻ったなという感じがする」と喜びを語り、「詩はラジカル(根源的・急進的)な表現をとる。その姿勢を貫いて、哲学的な意味も考えながら、論理的な詩作をしていきたい」と今後の目標を語った。
【正賞】當山善堂(とうやま・ぜんどう)氏(74)=黒島=
1944年、竹富町黒島生まれ。八重山古典民謡を通事安京師範、大濵安伴師匠、糸洌長良氏に師事。八重山古典民謡の詩的・言語学的方法論を森田孫榮氏や宮城信勇氏、喜舎場英勝氏に学んだ。
83年に八重山古典民謡コンクールで最優秀賞を受賞。翌年5月に「八重山古典民謡研究所」を開設。93年に師範となった。
その間、八重山古典芸能関連の論文を多数執筆。自らも実演者として研さんを積むとともに、2008年から13年にかけて「CD附精選・八重山古典民謡集」全4巻を発刊。同書は、八重山民謡の厳格な文法的探究や中舌音の2通りの表記など詳細に記され「八重山古典民謡を学ぶ人々にとっても最適・最良の教科書だ」と専門家の評価も高い。
受賞に「なぜこのタイミングで自分が選ばれたのか戸惑っている。推薦や選考に携わった方へ、私の研究に関する方法論や先学・先達の功績に対する検証・批判への評価に敬意を表したい」と述べた。
現在は、20年夏の出版を目指し「黒島の言葉・習俗辞典」を執筆しており「一般の方にも黒島の生活や習俗が分かりやすく読んで楽しく面白いものにしたい」と意気込む。
【特別賞】玉城功一(たましろ・こういち)氏(81)=波照間出身、大川在住=
1937年波照間島生まれ。8歳のころに戦争マラリアを体験し「この悲劇を記録し語り継がなければ」と決意。高校教師として教鞭をとるかたわら、戦争マラリアや、波照間を中心とする八重山の文化、歴史の研究に心血を注いできた。
74年に、強制疎開を体験した波照間島民の証言を調査、記録したリポートを執筆。沖縄県史に収録された同稿を始め多くの論考を著し、「竹富町史第七巻波照間島」の編集では、専門部会長として中心的役割を担い、西表南風見田の忘勿石之碑建立事業にも携わった。2010年に設立した「八重山戦争マラリアを語り継ぐ会」では、劇作家・栗原省氏の協力のもと、戦争を題材とした朗読劇や紙芝居などを上演し、幅広い世代へ戦争の記憶を伝えてきた。
受賞に「私個人に対する賞ではなく、関わってくれた人々と、生まれ島波照間に対する賞だと思う」と話し「これからも波照間の魅力、独自の豊かな文化、苦難の歴史を伝え続けたい」と話した。
【奨励賞】宮良断(みやら・だん)氏(43)陶芸家=新川
1975年、新川生まれ。沖縄県立芸術大学工芸学部陶芸コースの卒業制作で、県内で唯一人の磁器作家として高い評価を得た。
98年に同大を卒業後、琉球列島で唯一石垣島で採れる磁器原料(川平陶石)を使って本格的な磁器製作を開始、県内外のグループ展や日本民芸館展などに出展し、石垣島の磁器を発信している。
2007年の「八重山古陶|その風趣と気概」での展示で、300年前に作られた八重山焼きの存在を知り、識者、研究者らとともに「八重山古陶研究会」を立ち上げ、伝統古陶の発掘、再現に向け研究を続けている。
また近年は、原料に貝殻を砕いて混ぜることで透明感を生み出す独自の技法を開発。伝統文化の古い地層に触れながら、新たな世界を切り開いている。
受賞に、「意図せず作った物が八重山焼きと似ていることが多い。伝統を意識しつつも、内側から湧いてくるもの、今の時代の新しい物を積極的に作っていきたい」と決意を語った。