毎週日曜日の早朝、市街地の路上でかっぽ、かっぽと軽やかに歩く馬がいる。ドライバーも驚くが、馬は道交法上、軽車両扱い。指示通りに動くようしっかりと調教され、左側通行などの交通ルールを守れば、公道でも通行ができる。馬上には石垣市平得の親盛弘さん(69)。「大好きな馬と朝の新鮮な空気を吸いながら散歩するのは気持ちいい」とさっそうと手綱を引く。
昔は農作物の運搬や乗用の馬が路上を行き来するのは当たり前の光景だったが、農作業の機械化や自動車の普及に伴う道路事情の変化により、見かける機会も少なくなった。
親盛家は父親の充貴さん(享年82)が馬好きで、川平の共進会で行われていた競馬(1500㍍)で優勝した経験もある。家に馬がいるのが当たり前だった親盛さんが、初めて馬に乗ったのは小学4年生のころ。名蔵・嵩田にある田んぼで農作業をする父親に夜食の弁当を届けるためだ。
自宅の平得から田んぼまでの道順が分からず不安でいっぱいだったが、「馬が道を覚えているから大丈夫」と母親のそのさん(享年61)に背中を押され、馬にまたがった。
分かれ道では、馬の行く方向に手綱を合わせた。夕方になって薄暗くなると、田んぼのあぜ道を覆う雑木林に一層不気味さを感じた。
「この道で合っているのか」と心細くて泣きたい気持ちを押し殺しながら進んだところ、「おーい」と父親の呼ぶ声。ホッとした親盛さんは、道を覚えて目的地にたどり着いた馬の賢さに驚き、好きになった。それ以来、馬に夢中だ。
そんな親盛さんが、朝の散歩を楽しむようになったのは教職員を退職し、しばらくたった8年ほど前。交通量の少ない日曜日の早朝、愛馬のアンジェラ(メス、8歳)に乗り市総合体育館北側の馬小屋を出発。桟橋通り、国道バイパスを通る10㌔のコースを回る。ヘルメットや手袋を着用し、もちろん交通ルールを守る。雨の日は、ひづめがすべるのでお休みだ。
親盛さんは「馬は家族みたいなもので、とても愛らしい。健康管理のためにも散歩は大切」と話している。