コロナ禍の現在からは、まったく想像もできないことであるが、本土復帰前の石垣では「映画見学」という教育活動があった。学校単位で映画鑑賞をしにいくのである。超が付く「密」状態で▼たいていは「文部省推薦」の映画をみるのであるが、それでも学校とは違う「非日常」である。心うきうき、わくわく、どきどきの時間だった。別に感想文を求められた記憶もなく、実に「ゆるい教育」▼そのあおりを受けて当時、真面目いちずな生徒は「文部省」のあだ名を付けられた。先生の言うことをよく聞く、成績が比較的よろしい生徒たち。本人には実に不名誉だったようだ▼映画見学でどんな映画を見たのか、ほとんど記憶にないが、ひとつだけ鮮明に覚えている映画がある。市川崑監督の「東京オリンピック」。世界のアスリートたちの躍動する筋肉美、スローモーション映像に思わず息をのんだ。スポーツの素晴らしさを伝えてあまりある記録映画▼映画見学はテレビの普及もあったか、いつしか学校行事から消えたが、その当時、児童生徒だった世代には「文部省」のあだ名とともに忘れがたい思い出▼「祝祭」感も何もないままに東京オリンピック2020が始まる。変異株の第5波、懸念とともに。今の子どもたちにどんな記憶を残すのだろうか。(慶田盛伸)
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